巡り巡って(夜+首無)


姿形は総大将によく似ていて
中身は二代目とよく似ている
血は争えないとはよく言ったもので―…



□巡り巡って□



ミンミンと昼日中、忙しなく鳴いていた蝉の音が、虫の音色へと変わって幾時か。

「リクオ様、ちょっとソコにお座り下さい」

いつになく強い口調で首無に引き留められた。

「あ?」

それに、今から鴆の屋敷に行こうとしていた夜のリクオは面倒くさそうに、ソコと指定された、玄関に程近い座敷、畳の上に胡座をかいて座った。

リクオが大人しく腰を落ち着ければ、首無は後ろ手にピシャリと襖を閉めて、どこかうろんな眼差しでリクオを見つめる。

「首無?」

その眼差しに、はて、何か怒らせる様な事でもしたか?とリクオは首を傾げるもこれといって心当たりは無く。首無が口を開くのを待つ。

「…リクオ様」

「何だ?」

「貴方は本っ当に、二代目と似ていらっしゃる」

「お…ぉ?そうか?」

「えぇ。そんなに嬉しそうにされても困りますが」

ふと緩んだリクオの表情を見咎めて首無は続ける。

「特に目を離した隙に、行き先も告げずふらりと出掛けてしまわれたり、肝心なことは何も言わず後から言って無かったか?などと悪びれもせず仰られたりと……私が何を言いたいのか分かりますね?」

にこやかに首無が笑う。

「いや…、何かお前怖いぞ」

夏の夜だというのに、ふるりと背筋が震えた。

「何年、それこそリクオ様のお父上の代からお側に居る私が、何も知らないとお思いですかリクオ様?」

「え、あー…」

それは夜と昼の事か?
自由に入れ替わることが出来ると、この聡い側近は気付いていると?むしろ俺と昼が別々の人格だとも。

返答に戸惑ったリクオに、首無は追求の手を緩めない。

「さぁ、安心して洗いざらい吐いて下さい。この部屋は予め人払いしてありますので」

「………」

果たして首無はこんな奴だっただろうか?

夜は新たな首無の一面に諦めのため息を落とし、自身の事について少しだけ話すことにした。

信用していないわけではないし。それこそリクオが生まれた時から側にいる、頼れる妖怪の一人だ。

動きにくくなると困るので、あまり広めてくれるなよと前置きをして夜は話した。

「……やはり」

話し終えれば、予想通りだと首無は頷く。

ふよふよと浮く頭を夜は居心地悪そうに眺め、それで、もう行っていいか?と襖へ視線を移す。

「リクオ様。私の話、ちゃんと聞いてましたか?」

「…鴆のとこだ」

行き先も告げずにふらりと、か。

まさか親父の所業のせいで説教を受ける日が来ようとは。少々複雑である。

何とも言えない表情を浮かべた夜に、首無が心持ちフォローする様に付け足す。

「あ、いえ。二代目もやるときはやるでキチッとしてるんですけどね。少し大雑把な面が…」

裏を返すとそれ以外は…ともとれる発言に、夜は苦笑で返した。

それでも親父は組の皆から好かれていた。

これはちょうど良い機会なのかもしれない。

夜はゆるりと瞳を細め、今夜の予定を変更することにした。

「出掛けんのはやめだ。首無、今夜はお前が付き合え」

「は?」

「親父の話、聞かせてくれよ」

首無の了承を得る前に、廊下に顔を出し、近くにいるであろう毛倡妓を呼ぶ。

二人分の酒とつまみを頼み、戸惑った顔の首無と向き合う。

「さ、聞かせてくれよ」

どこかわくわくとした子供っぽい雰囲気を滲ませた夜に、迷っていた様子の首無は仕方ありませんね…と微笑を誘われて。
夜に乞われるまま首無は昔話を始めた。

その大半が鯉伴への愚痴だったとは、昔の首無を知るものにとっては言わずもがなである。

「へぇ、お前って昔は口悪かったのか。それにしちゃ今は丁寧だよな」

「リクオ様に悪影響を及ぼしてはいけませんから」

「なるほど…」



end



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